温暖化による過剰な気候変動がもたらす災害から社会を守るため、エネルギー消費量を抑えることは地球規模の緊急課題であり、また化石エネルギー資源をほぼ海外に依存している我が国にとっては経済的にも重要課題で、これから益々省エネルギー要請が高まります。何より、木や水、太陽光ほか自然由来の恵みを享受することが私たちの未来に繋がります。

ネット・ゼロ・エネルギー建物 + 循環型持続可能社会に向けた建築

駒ヶ根警察署中川村駐在所建設工事

長野県は気象非常事態宣言 ― 2050 ゼロカーボンへの決意 ― により今年6 月ゼロカーボン戦略を策定しました。広く県民の方にゼロエネルギー建築物をPR するモデル施設です。
駐在所でZEB、居住部でZEH 認証を取得すると共に、太陽の熱エネルギーを有効に利用した冷暖房換気システムや循環型持続可能社会実現に貢献する木質繊維断熱材を使用し、建物配置、形態でも省エネに気を配った建物です。

1.ゼロカーボンモデルにふさわしい省エネ対策

① 周辺環境を読み取り適性な建物の方位・配置とします。

・敷地南側の耕作地に将来建物が建つ可能性を踏まえ、建物は可能な限り北側に寄せ南側大きな開口部を設けることで冬の日照を確保します。
・窓を開けた時に風が室内を通り抜け自然な涼を得られるように開口部を配置します。

② 建物の断熱を強化し、夏涼しく冬温かい快適な室内環境を実現します。

<開口部>

・断熱性の高いアルゴンガス入り樹脂サッシを採用(熱貫流率0.86程度)します。
・中川村は県内では比較的温かい地域に分類されますが、全ての窓に日射取得型のLow-Eガラスを採用し、日照を有効 利用することで冬期の暖房負荷を低減します。

熱橋となるサッシ廻りはウレタンを吹き付けて気密を確保しその上から更に気密テープで塞ぎます。

<断熱材>

・木質繊維断熱材は断熱性に優れることはもちろん、透湿係数SD1以下、万が一の火災時に有毒ガスを発生しない等の性能を有します。加えて解体処分時の環境負荷低減にも貢献します。
・ZEHとZEBの認証を取得するためUA値(外皮平均熱貫流率)0.36、BPI(外皮性能)0.4となるようにします。木質繊維断熱材では屋根255mm、壁180mmの厚みでその基準を満たすことができます。

垂木間、母屋間、柱間に隙間なく断熱材を敷設していきます。

その上に調湿気密シートを重ね、気密テープで塞ぎます。
断熱材敷設完了後と竣工時の2回気密測定を行い、最終的にC値=0.7cm2/㎡を確保することができました。

※C値とは:相当隙間面積。建物にどれくらい隙間があるのかを示した数値。数値が小さいほど高気密であることを示す。

建物引渡し後1年間、信州大学工学部建築学科高村研究室にて室内の温湿度、CO2濃度の計測を行います。

③ 室内の温熱・換気・光環境を適正化します。

・南側は1.05mの深い軒の出を設け、夏期は日射を遮蔽し冬期は日射を取り込みます。
・東側、西側の開口部上部にも日射を遮蔽できる庇を設けます。
・北側にはハイサイド窓を設け安定した採光を確保し、夏期及び中間期の換気通風窓としても利用します。

④電気の無駄使いを防げる設備

・LED照明・空冷ヒートポンプ給湯機(エコキュート)・空冷ヒートポンプ空調(エアコン)・顕熱交換器(宿舎)・高断 熱浴槽・節湯機能付水栓等、高効率(通年エネルギー消費効率APF6.0以上)で電気の無駄使いを防げる設備を採用します。

2,再生可能エネルギーの効率的な利用

① 太陽光を最大限有効に利用します。

<太陽光発電>

・中川村は年間を通じて日照時間が長く、敷地周辺には支障となる建物もないため、効率的な太陽光発電が見込まれ ます。必要なエネルギーを全て電気でまかなうことで自給自足が可能な建物を目指します。
・ZEHとZEBの認証の取得並びに日照時間が最も短い冬至にあっても極力商用電力に頼らないようにするため、9.9kWの太陽光パネルを採用します。
・南西向きの本計画の場合、太陽光パネルを載せる屋根の勾配は30度と10度で3%程度しか日射量が変わりません。そのため勾配を10度(1.8寸)とし、建物の高さを抑える計画とします。

屋根には太陽熱集熱パネルを設置し太陽光の熱を空調換気に利用しています。
夏季を除く期間、集熱パネルで集めた太陽熱により暖めた空気をファンを通じて床下に送り、
床下のコンクリートに熱を蓄熱して建物全体を暖める仕組みです。

夏季は、昼間の熱い時間帯、ファンが自動的に停止して暑い外気が室内に入らないようにするとともに、
外気が下がってくるとファンが稼働し、外気を取り入れて床下から室内を冷やします。
床下も室内空間と捉えて空気の通り道を作ることで、室内全体が一定温度に保つようにしています。

<太陽熱集熱>

・太陽の熱を空調と換気に利用できるソーラーシステムを採用します。
・屋根下通気+金属製集熱パネルで冬期は日中の暖められた外気を、夏期は夜間の涼しい外気を床下に供給し、補助空調として利用します。

② 電力の使用量及び発電量の見える化

・「HEMS」(Home Energy Management System、カラーモニターが付いた家庭用の電力管理システム)を採用し、電力の「見える化」を行います。電力使用量及び発電量がリアルタイムで表示され、いつ、どの部屋の、どの機器 で多くの電力を使っているかが一目瞭然となり効率的に節電ができます。

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